源六は民宿らしい民宿です。ホテルのような施設や設備はありませんが、
その分、心温まるおもてなしと、いきとどいた接客ができると自負しております。

手作りの料理、ちょっとしたこだわりの品々…
どれをとってみてもご満足のいただけるものと思います。

ぜひ一度、この山陰の片田舎に足を運んでください。
きっと日頃の疲れをとり、ゆっくりとした時間の中で、
明日への元気が湧いてくるものと思います。

●女将のエッセイ/あおい厨に

江戸 雪 第一歌集『百合オイル』


江戸雪は現在五十五歳のスピード感があり、独自の短歌追求している歌人である。
作歌し始めて一年で、「塔」に入会し、その二年後に『百合オイル』を刊行している。
そして四年後に第二歌集『椿夜』を刊行しているのだが、その間さりげなく長男出産と書かれている。
そのバイタリティと短歌への意欲は並みならぬものが感じられる。
藤原龍一郎の江戸雪論からすると、
「常に世界への危機感を持ち、自らの身体をくぐらせることで燃焼させた言葉による表現、それこそが詩歌の真実であることを知悉している」


エッチングのような雨です留守電をあおい厨にしゃがみつつきく


エッチングは銅板の上の細かい線だが、疲れ切った体に暗いどんよりとした雨が重く、その上に連絡を待つ留守電が襲ってくるような冷たさを感じている。
厨は彼女にとって最も安心した場所なのだろう。しゃがみつくようにその電話を聞いている。
あおい厨もとても暗く悲しいものの象徴のようだ。自分の気持ちが素直に表現されている。


話すたび傷つけていた 音のない水に大皿さしいれていく


気持ちのよくわかる歌である。
言えば言うほど相手を傷つけてしまうが、なかなか元に戻ることができないでいる。
皿を片付けていく、厨での何気ない行動は、自分の内面をフラットにしようとするもので、厨は格好の場所なのだ。
傷をつけていたことと音のない水の対比が素敵だ。


闇の先またいで立てりふつふつと牛のすね肉煮崩しいる夜


なんと難しい歌だ。
江戸雪は散文で寺山修司を「誤解をおそれないひと」として傾倒し、真実を求める力があるといっている。
その類のような闇の世界を描いている。自分に負いきれないものを抱えて、料理をしているが、闇が厨を覆っているかのようだ。
すね肉が煮崩れしまうほどの虚無感や無力感が伝わる。

2022.6.17 源六・女将 嶋田冨美代